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今井幸充(ユッキー先生)

医学博士 
日本社会事業大学大学院教授

所属学会
日本認知症ケア学会副理事長
日本老年社会科学会 理事
日本保健医療福祉連携教育学会 理事
日本老年精神医学会 監事
日本老年医学会評議委員
社会活動
NPO法人認知症予防サポートセンター代表
NPO法人認知症ケア教育機構代表
著書
「脱・介護地獄―痴呆性高齢者をかかえる家族に捧ぐ―」ワールドプランニング
「ボケを防ぐ食事と生活」主婦と生活社
「施設介護の実践とその評価」ワールドプランニング
「モデルケアプラン」ワールドプランニング
「認知症ケア標準テキスト」ワールドプランニング
「もしかしたら認知症かも」内田千恵子著 今井幸充(医療監修)

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認知症掲示板

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ユッキー先生の認知症診察室
認知症専門医として、大学院教授として、認知症とどう向き合うか、ユッキー先生が語ります。
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第7回 なぜ、認知症の人は受診を拒むのか

先日のもの忘れ外来でのことです。初診の患者さんのカルテにメモ書きが挟んでありました。「本人には、『妻の健康診断の付き添』と説明して連れてきましたので、その点を配慮して診察してください」といった内容で、付き添ってきた娘さんからのものでした。

もの忘れ外来でよくみられる家族の訴えです。初診の患者さんの中には、このケースのように、家族がもの忘れを心配して何とか受診させようとするのですが、断固拒否する人がいます。このような抵抗に遭うと、どうしても受診を躊躇してしまい、初期の対応が遅れてしまいます。また騙して無理矢理病院に連れて来ようとすることで、家族の精神的負担がさらに大きくなってしまうようです。

なぜ受診を拒むのか?

私たちの普段の生活で、体調がおかしいと感じたときには、まずお医者さんに診てもらうことを考えます。それなのに何故、認知症の高齢者はそれを極端に嫌うのでしょうか。私のもの忘れ外来で、「何故、病院に来たくないのか」直接患者さんに尋ねたことがあります。その答えとして最も多いのが「自分はおかしくないから」でした。その他には「病院が嫌い」「薬を呑みたくない」「家族が馬鹿にするから」などで、その理由はまちまちです。でも、このような訴えを聞いていると、一生懸命に自分を守っているように思えるのです。「私はぼけていない」「みんなが "ぼけ"と馬鹿にする」「家族の世話になりたくない」「入院なんかしたくない」「施設なんかに入りたくない」と言うこころの叫びが聞こえてきます。

認知症は、エピソード記憶の障害がその代表的な症状ですので、新しく体験したことを全て忘れてしまいます。それ故、もの忘れで失敗したことや家族に迷惑をかけたことを覚えていません。ですから家族や周囲の者が「どうして覚えていないの」「今言ったばっかりじゃないの」と怒っても、呆れても、ご本人は何故そんなに怖い顔をするのか、なぜそんなに怒るのか、なぜいつも文句ばっかり言うのか、その理由が分からないのです。やがて、周囲の人が皆敵となり、自分を攻撃しているようにしか思えないのでしょう。だから「病院に行きましょう」と言っても、「自分はおかしくないから病院に行く必要がない」と拒否するのです。

認知症の人の病院に行きたがらない理由をこのように考えると納得がいきます。そして、さらに家族が何とか受診させようとごまかして病院につれてきたとしても、本人は「だまされた」とますます家族を信用しなくなり、ご自分を守るために、家族を攻撃し、医師や看護師も"ぐる"と思い、ますます病院が嫌いになる、また病院が恐ろしいところと思うようになってしまうのです。

どうすれば受診してもらえるか

私が、まだ大学病院で一般精神科外来を担当していた頃に、ときどき家族から受診を嫌がる高齢者の相談を受けました。その時、ご家族には「どのような手段でもかまいませんから外来にお連れください。お連れくだされば何とかします」とアドバイスをしていました。そして家族は、「健康診断に行こう」「ごはんを食べに行こう」「自分が調子悪いから病院に付き添ってほしい」などごまかして病院に連れてくるのですが、認知症の人は、すぐにだまされたことに気づきます。例えその場では怒りを露わにしなくとも、その後どんなに説得しても病院には行きませんし、家族との信頼関係も崩れ、家庭内では家族を攻撃するような悲惨な状況になってしまうのです。要するに騙して受診されたところで、私は何もできなかったし、かえって認知症の人に混乱を招いてしまったのです。「何とかする」と言った私のアドバイスは、医師のおごりであり、認知症の人への愚弄だったのですね。

そこで、本人には、最近のもの忘れの状況を説明し、早く診断し治療することで、少しでももの忘れの進行を遅らすことができることを説明し、納得した上で受診してもらうことが最善策と考えました。ご家族には、「本人に、今までのもの忘れの例を挙げて、周囲が困ったことを伝えてください。そして同時に、『治るもの忘れもあるので、早く専門家に診てもらいましょう』と説明して受診を勧めてください」とお願いします。

多くの家族は、このような説明で素直に受診する訳がない、と考えますが、そこで一言付け加えて欲しい言葉は、「私(家族)の為に診てもらって欲しい。」です。「(貴方が)認知症になったら、私がとっても困る。だからお願い、私の為に診てもらって」とお願いしてみてください。認知症の人も、夫であり、人の親ですので、家族への気遣いは十分残っているのです。

もの忘れのひどい高齢者は、みんな自分が以前と違う、何かおかしい、と気づいています。そして、これからどうなってしまうのか、不安でいっぱいなのです。だから、上からの目線で「もの忘れがひどい」「ぼけたのよ」「困ったわね」と言われたら、それに抵抗するために「ぼけてない」と言い張るしかないのです。そして病院で「ぼけ」と診断されたら困るのです。家族が、このようなご本人の気持ちを分かった上で、馬鹿にしているのではなく、心配している、このまま病気が進めば家族が大変になる事を、こころを込めて説明し、根気よく受診を説得してください。納得した上で受診すると、検査も受け、例え認知症であっても治療に積極的になっていただけるのです。

メモを入れた娘さんのケース・・・納得したご本人

先日のもの忘れ外来の例では、娘さんからのメモを読んだ時に、どのように対応したら良いのか困リました。診察室に入室してから、まず奥さんには、健康診断の必要性を説明し、そして最近のもの忘れのことを尋ねながら、本人にも同じ質問をしました。そして、もの忘れが進むと、生活が大変になり、ご家族の世話が必要になること,など時間をかけて説明しました。ご本人が、自分のもの忘れもについて口にしたときに、タイミングを見計らって、奥さんをはじめご家族の皆さんがご本人のもの忘れを心配していること、なぜ今日ご本人が受診しなければいけなかったのかを正直に説明し、検査を勧めました。

その時点では、まだ完全に納得はしていませんでしたが、CTの結果説明で、小さな脳梗塞が沢山あること、脳の血液の循環がうまくいってないこと、これがもの忘れの原因で、治療が必要なことを説明しました。そして血圧を測ると200/95と高く、本人も驚いていたようでした。そのうちご自分のもの忘れがひどいことを真剣に話しだし、病気への不安も本人の言葉で話し始めたのです。診察室を去るときには、ご本人から「先生、また来るからね、頑張って治すよ」と笑顔で退出しました。

気持ちを理解し、気持ちを伝えること

認知症も病気です。どんな病気でも本人しか分からない辛いことがあります。その人自身が失われていく認知症という病気に、本人のみならず、周囲の人も理解できず、苦しみ、不安になり、何とかしなければ、と思い、つい、お互いの言葉も表情も厳しくなってしまいます。でも、本人のつらい気持ちを理解すると同時に、本人にも家族の心配な気持ちを分かってもらう努力が必要です。このようにお互いの気持ちを理解し合えたら、本人への言葉使いも、表情も、優しくなれるかもしれませんね。その優しさは、本人の安心と家族への信頼に繋がるのです。

【ユッキー先生のアドバイス】

ご家族が本人の異常に気づいた時に、まずどのような医療機関に相談すれば良いのか迷うことが多いようです。ここでのアドバイスは、どのようにして認知症専門医を探すかお教えします。

  1)まずは、かかりつけ医の先生に相談してください。今、地域の医師会では認知症サポーター医の育成に力を入れています。かかりつけ医の先生であれば、医師会の会員の先生が多いので、地域の認知症専門医を知っているはずです。場合によっては、地域の医師会に問い合わせると、そのリストがあり、近くの専門の先生を紹介してくれます。

 2)平成21年頃から認知症疾患医療センターが地域に開設されています。全国150箇所に開設予定で、随時地域の総合病院や精神科病院に開設されます。そこに電話をして、担当の医療ソーシャルワーカーに地域の専門医を紹介していただくことも良いでしょう。以前はこのような担当者を「認知症連携担当者」と呼んでいました。ただ、このセンターでは、最先端の医療機器で認知症を診断し、治療方針を示すことはしてくれますが、実際の治療や生活のサポートは地域のかかりつけ医が担うことになっています。

 3)地域包括支援センターは、気楽に認知症の医療や生活支援について相談できる場所です。認知症の人の対応に困ったら相談してみてください。包括支援センターの主任ケアマネジャー、社会福祉士、保健師のいずれかが地域の専門医の紹介や、困りごとの相談に応じてくれます。

 4)インターネットで調べることもできます。日本認知症ケア学会(http://www.chihoucare.org/)、日本老年精神医学会(http://www.rounen.org/)、アルツハイマー病研究会(http://jaad.net/)などのホームページを診ると、専門医や認知症ケア専門士が紹介されています。

 5)認知症を扱う診療科は、精神科、神経内科、脳神経外科、総合内科等です。しかし、この標榜をしている全ての診療所や病院に専門医がいるわけではありません。看板だけを頼りに受診しても専門医でない場合があります。必ず、事前に調べてから受診しましょう。

 認知症という病気との闘いは長期戦です。本人も家族もその戦いに疲れないようするためには、自分たちだけで解決しようとせずに、地域のいろいろなサービスを有効に利用し、できるだけ楽な介護ができれば良いですよね。認知症の人と真正面から向き合い、こころを込めて本音で対応する事が、「楽な介護」の第一歩かもしれませんね。

<管理人より>
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第6回 抗てんかん剤はもの忘れに効くのか

「まさか!!もの忘れに効く薬があったなんて」、これは今年の1月18日にNHKの人気番組「ためしてガッテン」で放送された時のタイトルです。実は、このタイトルにちょっと違和感を持ちましたのでこのコラムの場を借りて、抗てんかん剤と認知症治療との関係についての正しい情報を提供したいと思います。

「てんかん」とは

「てんかん」は、脳の中で異常な放電が突然起こり、様々な症状がみられる病気で、この症状をてんかん発作症状と言います。代表的な発作症状には、突然、意識が喪失して痙攣を起こす大発作があります。この痙攣の多くは、10秒から15秒ぐらいで消失し、その後深い眠りにつき、目を覚ました時にはいつもの生活ができる状態に戻っています。

てんかんの治療の難しい点は、いろいろなタイプの発作症状があり、中には専門家でも「てんかん」と診断することが難しい例もあります。例えば、意識が一瞬だけ消失してしまう発作は、周囲の人が発作に気づくことはほとんどありません。本人も自分で何が起こったのか分からず、また「いつの間にか寝てしまった」と思い込み、病気に気づかないことが多いようです。

このような発作は、時として先日の通学途中の児童を巻き込んだ重大な交通事故のように大きな社会問題を引き起こすことがあります。しかし、てんかん発作の多くの場合は、きちんと診断し、治療を受ければ、発作を起こさず、何ら生活に問題なく毎日を送ることができます。

認知症と「てんかん」の関係

 認知症とてんかんの関係について述べましょう。一つは、てんかん発作の中に認知症と思わせる発作症状があること、そしてもう一つは認知症の人の中に、合併症としててんかん発作を起こすことがあります。

前者の場合は、認知症とは言いません。それは「てんかん」という病気がもたらす発作で、症状として、自分が何処にいるのか分からない、今の季節や時間が分からない、この人が自分とどのような関係にある人か分からない、と言った場所、時間、人の見当識が突然分からなくなり、また集中力も冒されますので、当然記憶力も障害されます。このようなことが突然起こると、高齢者の場合には、周囲の人は認知症と間違えることがあります。しかし、このもの忘れは、発作症状ですので認知症の人のもの忘れとは質が異なりますし、専門医がこれを認知症と診断することはまずありません。また、見当識の障害も発作症状として起こりますので、突発的で、その症状が長く続くこともありません。

NHKの「ためしてガッテン」のタイトルをみると「もの忘れに効く」とあり、「認知症に効く」とは言っていません。また、インターネットのサイトを読むと、てんかん症状の一つに記憶障害をきたすものがあり、この治療に抗てんかん剤を使うことで、もの忘れが治ると説明しています。

確かにてんかん発作による記憶障害であれば薬で治りますが、認知症の人を介護する人やもの忘れが気になっている人にとっては、大変紛らわしい表現で、誤解を生むことは否めません。メディアの力は大きいので、NHKは情報の伝え方に十分注意すべきですね。このタイトルでは、視聴率確保のためのタイトルとしか思えません。

後者の場合は、アルツハイマー型認知症の進行した例に間代強直発作(筋肉の異常な興奮と痙攣発作)が見られることがあります。アルツハイマー型認知症による脳神経細胞の変性が異常な放電をもたらし、けいれん発作が生じるのです。この症状は、認知症の人の20%前後に見られますので、比較的頻度が高い合併症といえます。しかし、多くのケースですぐに痙攣発作は消失してしまいますので、発作が起きてもあまり慌てる必要はありません。発作が止まり、意識が戻ってしばらく落ちついたらかかりつけ医に相談してみてください。

この場合は、ほとんどが抗てんかん剤の使用で発作の再発が防げます。しかし、中には、発作を何度も繰り返したり、また長時間発作が続いたりする場合があります。この場合を重積発作と言いますが、早急に発作をとめる医療処置が必要です。

ついでに認知症の治療薬として抗てんかん剤を用いられている例をご説明しましょう。実は、この抗てんかん剤は、認知症の人の激しい興奮やイライラ、異常な行動、喜怒哀楽といった気分の不安定な状況など、介護者が困るような気分の変調に有効な場合があります。抗てんかん剤のなかで、バルプロン酸やカルバマゼピンというお薬は、てんかん発作を抑える働きと同時に、気分を調節する作用もありますので、臨床では躁うつ病の患者さんにも使います。ただ、これらの薬は、高齢者の場合にふらつき、眠気、活動の低下、などの副作用が多く出現するので慎重な投与が望まれます。しかし、精神科の薬としてよく使われている抗精神病薬よりも副作用出現が少ないので、認知症の人の行動異常の治療によくつかられます。特にバルプロン酸はカルバマゼピンよりも副作用が少なく、また56歳の子どもに用いる量で十分に効果が得られます。ただ、全ての認知症の人の行動障害に効果的ではありませんし、この薬は即効性がありませんので、薬を呑んで血中濃度が安定するまでに34日の時間がかかることが欠点といえます。

【ユッキー先生のアドバイス】

認知症の人の中で、以前に脳梗塞や脳出血の既往がある人はてんかん発作の出現頻度が高いと言えます。間代強直型の発作であれば誰しもが異常に気づきますが、一見発作とは思えない発作症状もありますのでその見分け方が重要です。

 1) これまでのその人と全く違う状況が突然出現し、そしてすぐに元に戻るような状況であれば発作を疑ってください。たとえば、突然焦点が定まらないような目つき、口元をぴくぴくさせる奇妙な動き、無目的に歩き回る、奇声を発す、何か意味不明な手の動きや行動をする、独り言を言い出す、など今までに見られなかった奇妙な行動がみられたらかかりつけ医に相談してください。

 2) 同じような奇妙な行動が繰り返され、比較的短時間で元に戻ることがあれば、てんかん発作を疑ってください。

 3) てんかん発作か否かの診断は、脳波検査で行います。ただ、脳波で異常な波形が出現しないこともありますので、その場合は何度か検査を試みる必要があります。

アルツハイマー型認知症などの認知症が進行した状態で痙攣発作が起きたときには、以下の対応を心がけてください。

 1) 痙攣発作の継続時間を観察してください。発作を観察しながら、ゆっくり1,2,3と数を数えてください。そしてその数が30以上数えても痙攣発作が続いている場合は、救急車を呼んでください。多くは15ぐらい数えると発作は治まります。

 2) 痙攣発作の最中は決して身体を押さえつけて発作を止めようとしないでください。理由は、その刺激で発作を長引かせ、重積発作に移行してしまう危険があります。

 3) 食事をした後など、嘔吐することもあり、その際には嘔吐物が気管支に入ると誤嚥性肺炎を起こしてしまいますので、倒れた状態で、頭だけを横に向けて嘔吐物が気管支に入らないようにしてください。

 4) 痙攣発作は繰り返し起こると思ってください。特に発作を起こしたその日は、注意が必要です。外出を控え、倒れたときに後頭部などを打撲しないように気を付けましょう。再び発作が起こる前には、前兆として奇妙な行動がみられることがあります。そのような異常がみられたらすぐにソファーに座らせるか、寝かすかさせて、転倒を防いでください。

 5) けいれん発作がみられたら、できるだけ早い時期にかかりつけ医に相談して、抗てんかん剤を服用してください。多くの場合は、お薬で再発作が防げます。

今日の説明でご理解いただけたと思いますが、高齢者のてんかん発作はほとんどが治療可能で、発作を抑制できます。てんかんの中には、抗てんかん剤でなかなか発作が止められない難治性のてんかんもありますが、その多くは乳幼児のてんかんで、その頻度も普通のてんかんに比較して少ないのです。

 認知症の人に発作症状が疑われたら、できるだけ早く医療機関に相談してください。お薬で再発作を防ぐことができます。

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第5回 家族はプロの介護者になれない・・・

「もの忘れ外来」は、もの忘れを主症状とする患者さんの専門外来で、もの忘れが加齢に伴う正常のもの忘れか、認知症のもの忘れかを診断します。認知症を疑われた患者さんには、薬物による治療や在宅での過ごし方、介護の疑問、悩みについて医療の立場からアドバイスする事を目的にしています。

このコラムでは、「もの忘れ外来」での臨床体験から、認知症の特殊な症状、診断、診療、家族へのアドバイス等々を解説します。このコラムを通して認知症を正しく理解しましょう。

どこまで『優しく』接しなければいけないのか

75歳の市村良子さん(仮名)を介護しているのは、78歳の夫の一雄さん(仮名)です。仕事もリタイヤし、毎日良子さんを世話しながら二人で生活しています。でも近所に住む長女が、いつも二人の様子を見に来ていますので、心強いと思っていました。

そんなある日、もの忘れ外来に付き添った一雄さんはこんな事を私に語りました。

「先生、私は分からなくなりました。近くに住む娘は、お母さんに優しくしろ、認知症なんだから叱ってはいけない、できることは手を出してはいけない、お母さんが何をしたいのか良く話しを聞かなければいけない、等々、いろいろ私に忠告してくるんです。娘の言うことは正しいと思って、その通りに世話しているつもりなんですが、つい、叱ってしまう、文句を言ってしまうのです。すると娘が私に文句を言う。私も、つい、かーと、なって娘に大声を出す、そうすると娘は私を非難し、怒って、捲し立てるのです。娘にはかないませんから、分かったと謝るのですが、そうすると、ますます娘はお母さんをこうしろ、ああしろ、といろいろ言うのです。わたしも一生懸命やっているのですが、娘の言うとおりにはできません。妻にできる『いい世話』ってどうすることなんでしょうか」

「プロの介護」よりも、「よい夫」に

市村さんの訴えに、胸が詰まる思いでした。市村さんは、何とか「いい介護」をしようと一生懸命なのですが、娘の言うとおりにできなくて、自分を責めていました。そこで、私は市村さん向かって、「市村さん、市村さんが奥さんの夫でなくなったら、一番悲しむのは奥さんではないでしょうか。市村さんはプロの介護士さんではありませんし、プロの介護士さんにはなれませんよ。いつまでも良子さんの良い夫でいくださいね。それが奥さんの最も良い介護だと思いますよ」

 この言葉に、市村さんは微笑んだのです。肩の力が抜けたようでした。そして、「分かりました、彼女の良い夫でいます」と言い、退室しました。

家族が目指す「認知症介護」とは

 家族は、プロの介護者にはなれません。また、認知症の人にとっても自分の最も身近な家族がプロの介護者になってしまい、その人が変わってしまったとしたならば、とても寂しいのではないでしょうか。

専門家の「介護」は、認知症の人の持つ能力を最大限に引き出し、彼らの日常での自立と生活の質を高めようとする援助行為です。しかし、家族のおこなう「世話」は、毎日の生活の一部として行われています。報酬もなければ、プライベートな時間との区分もなく、時には24時間世話はしなければなりません。

家族の世話は、これまで認知症の人と一緒に生活してきたことの継続であって、決して学校で学んだ専門技術や知識を実行する事ではありません。さらに家族の「世話」は、以前からの人間関係がその対応に大きく左右します。良い関係が築かれていれば家族の「世話」への意欲は高まりますが、良い関係でなかったとしたら、それは望めません。

一雄さんと良子さんの夫婦は、昔から仲が良かったようです。だから、一雄さんは、自分の妻が認知症に冒されことを無念残念に思い、何とか治したい、もとの妻に戻した、という気持ちが、注意、説得、叱責に繋がったのです。しかし、いくら注意しても、怒鳴ってみても、良くなるどころか、どんどん出来ない事が多くなっていく妻に、失望したり、哀れんだり、複雑な感情が交差するのです。

そんな一雄さんの気持ちとは裏腹に、娘は、一雄さんに専門家がするような介護を要求し、一雄さんの世話のしかたを否定するのでした。そして、ペルパーさんやプロの介護者が行うようなやり方が正しいと主張し、それを一雄さんに強要するのでした。娘のこのような対応で一雄さんは、介護に自信をなくし、燃え尽きる寸前だったのかもしれません。

【ユッキー先生のアドバイス:主介護者を支えるために、周囲からの暖かい言葉を】

認知症の人を介護している家族は、特殊な思いを寄せてその人を世話しています。その心の中は、複雑で、葛藤、後悔、自責と言った辛い感情で一杯です。そのような家族に、専門家がするような介護や冷静な対応を求めることは酷なことです。

このケースで、娘さんが一雄さんに「お父さん大変ね、」「私ができることがあれば何でも手伝うわ」など、一雄さんをサポートするような声かけがあったなら、どんなに一雄さんの励みになったか知れません。

在宅では、主たる介護者が一人いればよいのです。そして、その周囲の家族は、主たる介護者を手伝う、助ける役割に徹すると良いでしょう。主たる介護者は、周りの人たちにお願いできる事はお願いし、日常生活上の介護負担をできるだけ軽減するように努めて欲しいと思います。

夫である一雄さんが側にいることで、良子さんは安心なのです。

2012年2月  今井幸充



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第4回 認知症を予防するには(その2)生活習慣の改善から

 昨年は、あの忌々しい災害に多くの不幸を体験しました。新年のご挨拶に、一つの詩をご紹介します。

 『 何となく 今年は良い事 あるごとし 元旦の朝晴れて 風無し (啄木) 』

 今年は、みなさまにとって良い年であることをこころから祈念いたします。また昨年から開設しました「ユッキー先生の認知症診察室」を今年もよろしくご支援ください。

認知症の「辛い」思いを防ぐために − 今日から始めましょう

 現在認知症の人は、200万人を越え、高齢者人口の増加に伴い、ますますその数が増える事が予想されています。これはもう特殊な病気ではなく、誰もが罹る一般的な病気と言わざるを得ません。よく「認知症の人は、何も分からないから幸せよね」などという人がいますが、決してそうではありません。無論、周囲の人たちにとって、その対応やケアは大変ですが、ご本人もやはり辛いようです。

 ちょっと考えてみましょう。例えば大切なものが見つからない時、大切な人の名前が思い出せない時、人との大切な約束を忘れて、その人に迷惑がかかった時、どれも辛い体験として残ります。認知症の人はそのような体験を毎日繰り返している、と考えると、その人の気持ちはとても辛いことが理解できます。

 そこで、「最近もの忘れがひどい」と感じている方、「認知になりたくなーい」と思っている方は、その予防対策を今日からでも始めましょう。

これまでの研究から見えてきた「予防法」

 第3回のコラムでも申し上げましたが、高血圧と糖尿病はアルツハイマー型認知症の危険因子の一つです。これらは生活習慣病の代表的疾患ですので、生活習慣病の予防がアルツハイマー型認知症の予防につながると言っても過言ではありません。

 実際に食事、運動、睡眠、嗜好などは、生活習慣病の発症予防に関連しますが、これらがアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症などの予防にも関連することが、学術誌等の論文に紹介されています。

 食事に関しては、ビタミンEの多い食物はアルツハイマー型認知症の発症を抑制するとの結果が報告されています。一方でビタミンEのサプリメントは予防効果が疑わしいとの報告もありますので、サプリメントに頼るのでなく、食物からビタミンEをとりましょう。その他には、ビタミンB群、ビタミンC、βカロチン、カルシウム、亜鉛、鉄などのミネラルなどの摂取が少ないこと、逆に総脂肪、飽和脂肪酸、コレステロールなどの脂質の摂取量が多いこと、が認知機能の低下に影響することが報告されています。

 食事以外の認知症予防にヒントを与えてくれる幾つかの調査結果があります。福岡県久山町で行われた7年間の健康調査では、身体活動の活発な人はアルツハイマー型認知症に比較的なりにくいこと、さらに米国の研究では 「新聞を読む」「雑誌を読む」「ゲームをする」「博物館へ行く」などのことを日常よく行っている人は、比較的アルツハイマー型認知症を発症しにくいことがわかりました。

 日本の研究者の報告では、認知症予防を目的とした認知機能を活性化する活動プログラムがエピソード記憶や注意機能の改善に関わったことを報告しています。具体的には、旅行の計画を立てる、新しい料理のレシピを考える、コンピューターを習う、等が挙げられています。

 その他に睡眠障害や睡眠不足は注意力を冒すことから十分な睡眠をとることが有益と言われています。30分未満の昼寝習慣を持つとアルツハイマー型認知症の発症を有意に低下することが報告されています。

 また、アルツハイマー型認知症の予防のために、規則正しい食生活と睡眠スケジュール、毎日の軽い運動、朝起床後に2時間以内に太陽の光を30分以上浴びることを提唱している研究者もいます。

 喫煙に関しては、その予防効果に賛否両論があります。記憶に関わる神経の伝達物質がニコチンにより活性するとの報告から、ニコチンをアルツハイマー型認知症の治療として提案されたことがあります。しかし喫煙の予防効果については明確な結論は得られていません。いずれにしても喫煙は、高血圧、脳卒中、心臓病、肺がん等多くの生活習慣病にも関連していますので、控えるべきでしょう。

【ユッキー先生のアドバス】

 学術的な研究結果から、根拠のある予防法を紹介しました。では、具体的に普段の生活で、どのような事に気付けば良いのか、アドバイスしましょう。

【食事に関して】

○ 野菜を多くとるようにしてください。どんな野菜でも結構です。普段の食事で野菜を十分にとっている人は、そうでない人に比較すると、アルツハイマー型認知症に罹る率が3分の1少ないようです。

○ お肉よりも魚を食べましょう。特にアジ、サバ、サンマ、イワシと言ったいわゆる青魚が良いようです。これは魚の脂のDHAが脳の活性に良いという研究結果に基づくものです。報告では、DHAを多く含む魚をよく食べている人は、食べていない人に比較してアルツハイマー型認知症に罹る可能性が6分の1に抑えることができると言われています。

○ たまにはワインでも飲んで食事を楽しみましょう。特に赤ワインは、そこに含まれているポリフェノールが脳の活性に良いと言われています。日本酒もよい、との報告もありますが、いずれにしてもアルコール類は飲み過ぎるとアルコール性認知症になってしまいますので、ほどほどにしてください。

○ コーヒーや緑茶を飲んで、ちょっと一息を入れましょう。オランダの国立研究所が1日3杯のコーヒーが脳の活性化に良いと報告しています。コーヒーに含まれるカフェインやマグネシウムが認知機能に良いようです。コーヒーが苦手な方は、1日2杯の緑茶でもよいようです。

【有酸素運動】

○ 散歩は全身の血流をよくして、細胞を活性化します。一日1回は散歩してリフレッシュしましょう。どのくらいの量の散歩がよいかは研究者によって異なりますが、30分位がよいようです。その際には、ぜひ楽しみながら散歩してください。周囲の風景や出会いを楽しみに散歩しましょう。

【ゲーム、楽器の演奏、ダンス、人と交わる】

○ 大いに楽しんでください。いろいろな楽しいことを見つけて、認知症予防という目的でなく、人生の楽しみとして熱中してください。このように熱中できる趣味などを持っている人は、毎日陰鬱な生活を送っている人よりもアルツハイマー型認知症に罹る可能性が3分の1に抑えられています。

○ 人とおしゃべりしたり、趣味を一緒にしたり、他人との会話を持つことやいろいろな目的で交わる事は、認知症の最大の予防法です。このように人と交わる事で充実した生活を営んでいる人は、孤独で閉鎖的な生活を送っている人に比べるとアルツハイマー型認知症に罹る可能性が8分の1に抑えられていることが分かったのです。

 これまでの4回は、認知症を一般の方に理解していただく為のコラムと私たちの身近な事としての認知症予防について述べてきました。今後も認知症に関わる情報について、その都度、このコラムでご紹介します。

 次回からは、私が診療しているもの忘れ外来の診察室から、認知症に関する医療、介護、福祉の様々な問題を取り上げたいと思います。このコラムを通して、認知症の人やご家族の方、さらに多くの人たちの認知症への理解と正しい対応に少しでもお役に立つようにと意気込んでおります。ご期待ください。

 2012年正月  今井幸充

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第3回 物忘れが心配、認知症を予防するには・・・(その1)

 家族が「最近、物忘れがひどいわね」と感じ、また自身でも「物忘れがひどい」と思っている人の多くは、認知症の予備軍です。このような人は、前回説明しましたように、「軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment − MCI)」と診断される人で、疫学調査でも一般の高齢者よりも約10倍アルツハイマー型認知症になる可能性が高いと言われ、ハイリスカー、すなわち高い危険性を持った人なのです。

 では、普段からどのような事に心がければ、アルツハイマー型認知症にならないですむのか、考えてみましょう。

 病気の予防を考える上で、まずは予防とはどのようなことなのかを整理しておく必要があります。一般に、病気の予防は、病気にならないために何らかの手段を講じることを意味します。最も身近なことでは、癌や心臓病、脳卒中などの生活習慣病の予防を誰しもが心がけています。このように「病気にならないための予防」を「一次予防」と言います。

 そして「二次予防」とは、病気を早く発見して、重症化しないうちに治療することで、具体的には健康診断がこれに当たります。

 MCI(軽度認知障害)と診断された人が、アルツハイマー型認知症にならないための予防は、一次予防とも二次予防とも言えます。MCIは、病気ではなく、加齢に伴う認知機能の低下、と考えるならば一次予防ですし、病気と考え、進行してアルツハイマー型認知症にならないために早く発見して、予防の手段を講じるならば二次予防ですが、一般には前者と考える人が多いようです。

 さて、一次予防の策を講じるためには、発病の原因を明らかにすることであり、それを避けることが最も効果的な予防といえます。例えば、肺癌ではタバコが大きな原因であることが確認されていますので、まずはタバコをやめることが効果的な肺がん予防です。そしてこのタバコのことを肺ガンのリスクファクター、危険因子と呼びます。

 では、アルツハイマー型認知症のリスクファクターにはどのようなものがあるのでしょうか。確認されているリスクファクターの中には、「歳をとること」と「女性であること」が挙げられますが、これを予防することは出来ませんね。その他には、アルミニウムの体内摂取、頭の周囲が小さいこと、過去の頭の怪我、教育歴などが挙げられましたが、これらのすべては、科学的な証拠を明らかにすることは出来ませんでした。

 最近、九州大学の研究者たちが、アルツハイマー型認知症のリスクファクターは高血圧と糖尿病であることを疫学調査で明らかにしました。すなわち、高血圧や脳卒中など、脳の血流に問題がある人、または糖尿病の人は、アルツハイマー型認知症にかかりやすいことが、証拠を持って示されたのでした。

 そうなると高血圧や糖尿病は、生活習慣病の代表的な病気ですので、生活習慣病の予防対策がアルツハイマー型認知症の予防になると考えられます。すなわち、食事や運動に関する普段の生活習慣を改善することがアルツハイマー型認知症の予防に結びつくと言ってもよいでしょう。そのなると、アルツハイマー型認知症も癌などと同じように生活習慣病ではないのか、という議論も当然医学会では持ち上がっていますが、未だ結論には至っておりません。

 【ユッキー先生のアドバイス】

 現在、高血圧や糖尿病の治療を受けている方は、将来、アルツハイマー型認知症にかかる可能性が高いと言うことです。ではそのような慢性の病気を持っている人は、日常生活でどのようなことに注意すればよいのでしょうか。

 1. まずは医療機関で治療が必要か、必要でないかを判断してもらいましょう。また30~40歳代になったら、必ず年に1回、健康診断を受け、血圧や血糖値が高くないか、またコレステロールや中性脂肪の値もチェックしましょう。

 2. すでにお薬を飲んでいる方は、当然のことですが、忘れずにお薬を呑むようにしましょう。ただMCI(軽度認知障害)の方は、物忘れが主たる症状ですので、その人に「忘れないように薬を呑むこと」を期待しても無理なことがあります。ですから家族や周囲の人が、忘れないで薬を呑むように、見守り、手伝ってあげることが必要です。

 3. 普段から、家でも血圧や血糖値を測り、自分で健康管理をしましょう。血圧は最高血圧(収縮期血圧)が140mmHg以下、最低血圧が85mmHg以下を正常値としますが、だいたい最高血圧120mmHg、最低血圧80mmHg前後を維持するように心がけましょう。血糖値は、空腹時で100g/dl以下をめざしましょう。

 4. 日常の生活では、両方の病気とも、食事の管理、運動は重要な予防要因です。塩分や糖分、カロリーをとりすぎないようにし、日頃の有酸素運動も欠かさないようにしましょう。特に運動は、歳をとると億劫になってしまいますが、効果的な予防法ですので、なんとか工夫して継続的に身体を動かすことを考えましょう。大切なこと、と分かっていても、やらないのがこの運動ですので、一人でやろうとしないで、ご夫婦で、友人や近所の人と一緒に楽しんで身体を動かすことを考えましょう。また何かのサークルに参加することも良いでしょう。

 今回はアルツハイマー型認知症の予防についてお話ししましたが、その他の認知症を来す病気は、脳血管性認知症を除いて、そのリスクファクターが明らかにされていません。次回は、アルツハイマー型認知症の一次予防として、健康な人の予防法を解説しましましょう。

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第2回 正常(生理的)の物忘れ、認知症の物忘れ

 物忘れを体験しない人はいません。特に歳をとると物忘れがひどくなったと感じる人も多いと思いますが、その物忘れが全く問題ない誰もが体験する物忘れなのか、認知症のような病気の物忘れなのかの区別は、なかなか難しいことがあります。 そこで、この回では、物忘れについてお話しましょう。

 正常な「物忘れ」とは


 「物忘れ外来」を初めて受診される人の中には、物忘れをとても心配して一人で、また夫婦で来院される方も少なくありません。その人達の訴えを聞きますと、「先日、大切や約束を忘れてしまった」「いつも、メガネの置いた場所がわからなくなって、大騒ぎをする」「人も名前が覚えられない、思い出せない」、ときには「買い物に行ったが何を買うのか分からなくなって、帰ってきた」など日常の物忘れに纏わるエピソードで、「私はアルツハイマー病に違いない」とご自分で診断し、来院されます。

 このようにご自分の物忘れ体験を切実に訴える方の多くは、物忘れで失敗した苦い体験を全て覚えているのです。ようするに、ご自分の最近の出来事を細かく覚えていると言う事は認知症ではありません。

 集中力を欠いていたり、多くの情報が一度に押し寄せていたり、本人がパニックに陥っていたりすると、それが原因で物忘れが生じます。そして、普通の人は、自分の体験の「一部」を忘れる物忘れが特徴です。約束は忘れても、誰と約束したかは覚えている、名前は忘れても顔は覚えている、何を買うのか忘れても、買い物に行ったことは覚えています。

 認知症の物忘れ

 それに対して、認知症の物忘れは、自分の体験の全てを忘れてしまうのです。ですから自分自身で詳しく物忘れのエピソードを説明する事はできませんし、しません。多くは、物忘れに対しての自覚がないので、アルツハイマー病を心配して物忘れ外来に受診した方がよい、と思うこともありません。そして、物忘れがだんだん進行すると、一人で電車に乗って遠くに出かけること、金銭の管理、クスリを決められた時間に決められた量を服用することなど日常生活の複雑な行為がうまくできなくなってきます。

 軽度認知障害(MCI)とは

 このように、普通の人の物忘れは、歳とともに、体験の一部を忘れるケースの頻度が増えても、物忘れにより日常の生活に混乱をきたしたりするような事はありません。

 しかし、ここで安心する訳にはいきません。高齢者の中には、認知症ではないけれど、ごく普通の物忘れの人に比較すると、その頻度や程度がひどい人がいます。このような方を「軽度認知障害 Mild Cognitive Impairment (MCI)」と言います。自他共に物忘れがひどいことを認め、記憶に関する心理テストを行うと正常の人より明らかに記憶力が低下しているのですが、日常の生活は問題なく営める人、このような人をMCIと診断します。

 このMCIを定義した研究者が実施した疫学調査によりますと、一般高齢者がアルツハイマー型認知症になる確率は年間1〜2%であるのに対して、MCIでは年間10〜15%との報告でした。一般高齢者よりも約10倍アルツハイマー型認知症になる可能性が高いのです。要するにMCIと診断された人は、アルツハイマー型認知症のハイリスカー、高い危険性を持った人、といえます。では、どのような事に普段から心がければ、アルツハイマー型認知症にならないですむのでしょうか。次回に詳しくお話しましょう。

 【ユッキー先生のアドバイス】

 自分の物忘れがどの程度なのか、自分で調べてみてください。

 1.  貴方は何歳ですか。
 2.  今日は何月何日何曜日ですか。
 3.  今の季節は。
 4.  今日の朝食は何を食べましたか。
 5.  いま、貴方は何処にいますか。
 6.  どのようはものでもよいのですが、3つのものを頭に浮かべてください。
      例えば サクラ 猫 電車
      その言葉を1分後に思い出してください。
 7.  100から7を引く計算を暗算してください。答えから次々に7を3回引いてください。
 8.  4桁の数字を頭にならべてください。その数字を後ろから順に言ってください。
 9.  貴方の知っている野菜の名前を1分以内に10個挙げてください。
 10. で思い浮かべたものの名前をもう一度言ってみてください。

 この物忘れのテストは、かかりつけ医や介護専門職の人たちがよく使っている「改訂長谷川式簡易知能審査スケール」の中の問題を参考に作ってみました。どのくらい答えられたでしょうか。恐らく3つ以上間違っていたとしたら貴方の物忘れは注意が必要かもしれません。一度物忘れ外来に受診してきちんと調べてもらいましょう。
 いずれにしても、本人も家族も、また周囲の人も、物忘れがひどいと感じたら、一度専門医を受診してください。

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「認知症かな?」と思ったら 〜病院に行くべきときは〜

認知症の「認知」とは


 認知症は、記憶障害を伴う認知機能の障害によって社会で活躍したり、ひとりで生活したりすることが困難になる病気です。この代表的な病気がアルツハイマー型認知症ですが、他にも脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症など、認知症を主症状とする脳の病気は沢山あります。

 では、何故、認知症になると日常生活が一人では営めなくなるのでしょうか。認知機能とは、簡単に説明しますと、人と人との交流に必要なコミュニケーション能力であり、また人が生活するに必要な能力でもあります。ですからこの能力が冒されると、自分の考えや希望を他者に伝えること、困ったときの適切な解決方法、物事の善し悪しの分別など、以前は問題なくできていたことができなくなります。また読んだり、書いたり、作ったり、しゃべったり、人間が持つ高度な能力も冒さ、これらの行為もできなくなります。このように、認知機能とは、知能とほぼ同じ能力で、この能力が冒されるために社会での混乱や生活上の混乱を来たし、ケアなしでは生活できなくなります。

 記憶は、この認知機能に含まれる能力の一つで、医学的に認知症と診断するためには、記憶の障害がなければなりません。その上で他の認知機能も冒され、社会生活や日常生活に混乱がみられ、生活ができなくなったことが確認されると、認知症と診断します。

 ここで、「認知機能の障害に伴う日常生活の混乱」とは具体的にどのようなことか説明しましょう。自分の大切な家族が認知症にかかったか否かを判断するとき、「もの忘れ」は重要な決め手になりますが、その「もの忘れ」が認知症の「もの忘れ」か、あるいは加齢に伴う正常の「もの忘れ」か、を区別しなければなりません。そこで重要なのが日常生活での変化、混乱です。「もの忘れ」があっても普段の生活で混乱がなく、これまでと全く同じような営みができていたら認知症とは診断できません。ごく初期は、「趣味に興味をなくした」「外出しなくなった」「あまり人と喋らなくなった」「家に閉じこもるようになった」「料理を作らなくなった」「『あの、その』と言った代名詞が会話に多くなった」など、混乱とは言い難い状態ですが、このように以前と違う生活の様子がみられたら要注意です。認知症の人の家族に病気の始まりの様子を詳しく尋ねると、このような変化に気づいていましたが、ただその時は「歳のせい」と気楽に考えていたようです。一緒に生活して家族は、買い物に行って帰れなくなった、銀行でお金が出せなくなった、薬の呑み方がわからなくなった、邪推がひどくなった、など、家族がご本人の対応に実際に困るようにならないと「認知症に罹ったかもしれない」となかなか思えないようです。

 それ故に、認知症の最初の発見は、「その人の生活が変わった」「その人らしさがなくなった」と言ったサインが重要で、それらを見落とさないことです。

ユッキー先生のアドバイス  〜認知症かな?と思ったら〜

 ご家族が「認知症かな〜??」と思ったら、またご本人が「もの忘れがひどい、認知症かな〜」と心配になったら、できるだけ早く専門医を受診しましょう。

 その理由は2つあります。

 1つ目の理由。認知症には、脳の神経細胞が変性して徐々に進行していくアルツハイマー型認知症などの本来の認知症と、高血圧、糖尿病、高脂血症、心不全、慢性呼吸器疾患のように身体の病気や脳卒中、正常圧水頭症、硬膜下血腫などの脳の急性の病気などで、一時的に認知症になり、身体の病気の治療により認知症が改善する「治る認知症」の2つのタイプがあります。ご家族が「認知症」と疑った時に、それがどちらのタイプの認知症なのかをできるだけ早く鑑別する必要があります。特に「治る認知症」のタイプは、その原因となっている病気を治療することで認知症の症状も消失し、放っておくと本来の認知症に発展してしまうからです。例えば、夏の時期の熱中症では、その最初の症状として、脱水症状に加えて認知症の症状も現れます。そこで点滴などで水分を補給することで、脱水が改善され、認知症も改善されます。また、風邪の薬や精神の安定剤など、よく使われているクスリに中には、人によって一時的に認知症にしてしまうものもあります。その場合は、呑んでいる薬をやめなければいけません。

 このように、ご家族が「認知症かな?」と思った時、「認知症だからしかたない」「治らない」と決めつけずに、ご本人の身体の状態をチェックし、「治る認知症」であれば、できるだけ早く治療を施す必要がありますので、かかりつけ医に必ず相談してください。

 2つ目の理由。ご家族が最初に「おかしい」と思った事は、家族も本人も今すぐに「何とかしなければならない」という危機感に満ちた症状でないことが大半で、また「歳のせい」と病気とは考えようとしませんから、どうしても医療機関への受診が後回しになりがちです。家族が最初に気づいた頃は、多くの場合、軽度認知障害と言って、認知症ではないが、記憶力は同じ年代の人と比べると多少落ちている状態です。この時期に治療を開始することで認知症に伸展することを防いだり、その発症を遅らせたりしますので、上記の1つめの理由と同じように、早期に医療機関に相談してください。

 いずれにしても、認知症は「病気」ですから、ごく初期に、また軽度認知障害の状態で受診し、本当の認知症にならないよう医療に相談しましょう。またできるだけ早い時期に治療を開始して、その進行を抑えるようにしましょう。

 「ユッキー先生の認知症診察室」は、もの忘れ外来での経験談や認知症に関する新しい医療情報についてお伝えする新しいコーナーです。認知症のケアは大きな負担であることは言うまでもありませんが、正しい知識とケアは、その軽減に繋がります。このコラムを通して、皆さんと一緒に認知症のことを考え、少しでも認知症の人がこころ穏やかな生活を送れるような対応を考えていきましょう。ご期待ください。

 ユッキー先生より

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